結論:書かれたものと書かれないものへの注目。描写からいろいろ読める。閏土の視点も併せて読む。
中3教材「故郷」(魯迅)の指導案を書いているときのメモを載せておきます。
(1/19追記 引用は集英社版 世界文学全集『魯迅・巴金』から)
〇学習指導要領の読むことの学習過程との対応
・構造・内容の把握
→回想を挟む。時間順ではない。やや複雑な構造。
文章も長いため、構造・内容を把握する機会にはなる。
・精査・解釈
→心理描写の多様性。
登場人物の心の声(内言)、セリフ(外言)…言葉
風景描写と、行動…言葉以外 に表れる。
→書かれたものから心情を読む練習になる。
・考えの形成
時代背景と絡めて論じられる。
希望や格差など、深刻な話題との関連が深い。
〇場面分け・構造
場面1 故郷到着
2 閏土の記憶と別れ
3 楊おばさんの登場
4 閏土と再会
5 故郷を去る
⇒構造・内容の把握:回想を挟む、私の1人称語り。
〇記憶の描き方の特徴
場面1冒頭 記憶と現実で故郷像が違う。過去の閏土を鮮明に思い出す。
場面4閏土登場 私の中で閏土の思い出が湧き出る。
場面5故郷を去る 閏土のイメージはぼんやりして、月だけが見える。
⇒精査・解釈の着目
:心理描写のうち、登場人物の心の声(内言)が豊か。
〇以下、生徒が気づきそうなこと
(最後の場面の「希望」「新しい生活」解釈は除く)
〇場面2 閏土の記憶と別れ
気づき1
・閏土が私に語ったこと(閏土のいる農村の事物)は具体的。
・会話の感じを残しつつ、絵画的(活き活き)
気づき2
・閏土の語る世界を理想化
→「汲めども尽きぬ不思議が満ちている」
「この子どものころの思い出」により、「はじめて故郷の美しい姿に接した思い」
気づき3
・私が閏土に語ったこと(私のいる都市の事物)は書かれない。
→私の記憶だから、印象的なものだけを覚えていて当然。
→もし覚えていたら気づくことは?(都市と農村の格差etc)
気づき4
閏土の記憶する、幼少期の私との思い出はどんなもの?
(視点を換える)
ホットライン教育広島の国語指導案の一覧
https://www.hiroshima-c.ed.jp/web/an/j/ko/index-ko2.html
にある故郷の指導案
https://www.hiroshima-c.ed.jp/web/an/j/ko/ko_j_2401.pdf
の「指導観」でも、読み・考えを深めるために、私以外の視点で読むことを提唱。
〇場面3 楊おばさん登場
・気づき1 楊おばさんが特筆されている。
根拠:楊以外の親戚・隣人は
「近所にいる親戚たち」でまとめ、4~5日のできごとを1行で。
・気づき2 楊おばさんに何が起きたか?
印象が悪い人が後でいい人・苦労人とわかる話は、ドラマではよくある。
しかし、ヤンおばさんにはそれがない。
・気づき3
場面5 故郷を去る場面同様に、楊おばさんの登場前に、宏児と私の会話。
純粋な宏児と変わり果てた楊おばさんの対比?
〇場面4 閏土と再開
・気づき1 変貌の理由を想像する私
「子沢山、不作つづき、苛酷な税金、兵と匪と官と紳」が原因。
⇔ 場面3の楊おばさんの変貌理由には触れない。
・気づき2 水生(閏土の子)
人見知りをするが、水生とすぐに遊べる。
場面2のかつての閏土は、
「彼は人見知りをしたが、私にだけは馴れて」友達になる。
=閏土親子は同じことを繰り返す。
・気づき3 映像よりも細かい描写?
・閏土の容貌
背丈→顔色→しわ→目もと→帽子→服→手→手先の順に書く。
映像と違って、どの順番で言うかが自由。
・閏土が「旦那さま」というまでの、
一瞬の表情の変化、唇のかすかな動きなども書ける。
・気づき4 閏土の目元
「海辺で耕作するものは、終日潮風に吹かれる」から、
「目は、これも父親と同じように、周囲がはれぼったく赤らんでいる。」
→閏土が海辺の西瓜畑で見張りをするのも、
父親が海辺で耕作しているから。
→閏土の西瓜畑の話も、本当はもっと貧困にあえぐ話?
〇場面5 故郷を離れる
気づき1 子どものときの別れとの違い
・閏土が陶器を盗む予定だったのかという謎。わだかまり。
・私と閏土は話す暇もない。
→場面2の子どものときは、泣き別れ。美しい思い出として残る。
〇難しめの読書案内
辜鴻銘の『中国人の精神』(The Spirit of the Chinese People)について | 学術機関リポジトリデータベース
戦後日中思想交流史の中の『狂人日記』 : 「中国に学ぶ」から「共通の課題の探求」へ | 学術機関リポジトリデータベース
現代中国における魯迅
魯迅研究の隆盛は何を意味しているのか | 社会・文化 | 中国学.com
・閏土を変えた原因=兵匪官紳は
の幼年・青年時代が参考になる。
わかりやすい概説書として、官と紳については、
匪については、
同書書評の 文明の傀儡としての「英雄」
を参考。
『少年の日の思い出』の訳者である高橋氏についても、研究がある。
書け,書きつづけよ! : 「ドイツ文学者」高橋健二の誕生 | 学術機関リポジトリデータベース
ひとまず以上です。