国語教育 文学教材のネタ4 故郷

結論:書かれたものと書かれないものへの注目。描写からいろいろ読める。閏土の視点も併せて読む。

 

中3教材「故郷」(魯迅)の指導案を書いているときのメモを載せておきます。

(1/19追記 引用は集英社版 世界文学全集『魯迅・巴金』から)

 

〇学習指導要領の読むことの学習過程との対応

・構造・内容の把握

→回想を挟む。時間順ではない。やや複雑な構造。

 文章も長いため、構造・内容を把握する機会にはなる。

・精査・解釈

→心理描写の多様性。

 登場人物の心の声(内言)、セリフ(外言)…言葉

 風景描写と、行動…言葉以外 に表れる。

→書かれたものから心情を読む練習になる。

・考えの形成

 時代背景と絡めて論じられる。

 希望や格差など、深刻な話題との関連が深い。

 

〇場面分け・構造

場面1 故郷到着

  2 閏土の記憶と別れ

  3 楊おばさんの登場

  4 閏土と再会

  5 故郷を去る

⇒構造・内容の把握:回想を挟む、私の1人称語り。

 

〇記憶の描き方の特徴

場面1冒頭 記憶と現実で故郷像が違う。過去の閏土を鮮明に思い出す。

場面4閏土登場 私の中で閏土の思い出が湧き出る。

場面5故郷を去る 閏土のイメージはぼんやりして、月だけが見える。

精査・解釈の着目

:心理描写のうち、登場人物の心の声(内言)が豊か。

 

〇以下、生徒が気づきそうなこと

(最後の場面の「希望」「新しい生活」解釈は除く)

 

〇場面2 閏土の記憶と別れ

気づき1

・閏土が私に語ったこと(閏土のいる農村の事物)は具体的。

・会話の感じを残しつつ、絵画的(活き活き)

 

気づき2

・閏土の語る世界を理想化

→「汲めども尽きぬ不思議が満ちている」

「この子どものころの思い出」により、「はじめて故郷の美しい姿に接した思い」

 

気づき3

・私が閏土に語ったこと(私のいる都市の事物)は書かれない。

→私の記憶だから、印象的なものだけを覚えていて当然。

→もし覚えていたら気づくことは?(都市と農村の格差etc)

 

気づき4 

閏土の記憶する、幼少期の私との思い出はどんなもの?

(視点を換える)

ホットライン教育広島の国語指導案の一覧

https://www.hiroshima-c.ed.jp/web/an/j/ko/index-ko2.html

にある故郷の指導案

https://www.hiroshima-c.ed.jp/web/an/j/ko/ko_j_2401.pdf

の「指導観」でも、読み・考えを深めるために、私以外の視点で読むことを提唱。

 

 

〇場面3 楊おばさん登場

・気づき1 楊おばさんが特筆されている。

根拠:楊以外の親戚・隣人は

「近所にいる親戚たち」でまとめ、4~5日のできごとを1行で。

 

・気づき2 楊おばさんに何が起きたか?

印象が悪い人が後でいい人・苦労人とわかる話は、ドラマではよくある。

しかし、ヤンおばさんにはそれがない。

 

・気づき3 

場面5 故郷を去る場面同様に、楊おばさんの登場前に、宏児と私の会話。

純粋な宏児と変わり果てた楊おばさんの対比?

 

〇場面4 閏土と再開

・気づき1 変貌の理由を想像する私

「子沢山、不作つづき、苛酷な税金、兵と匪と官と紳」が原因。

⇔ 場面3の楊おばさんの変貌理由には触れない。

 

・気づき2 水生(閏土の子)

 人見知りをするが、水生とすぐに遊べる。

 場面2のかつての閏土は、

 「彼は人見知りをしたが、私にだけは馴れて」友達になる。

 =閏土親子は同じことを繰り返す。

 

・気づき3 映像よりも細かい描写?

・閏土の容貌

 背丈→顔色→しわ→目もと→帽子→服→手→手先の順に書く。

 映像と違って、どの順番で言うかが自由。

・閏土が「旦那さま」というまでの、

 一瞬の表情の変化、唇のかすかな動きなども書ける。

 

・気づき4 閏土の目元

 「海辺で耕作するものは、終日潮風に吹かれる」から、

 「目は、これも父親と同じように、周囲がはれぼったく赤らんでいる。」

 →閏土が海辺の西瓜畑で見張りをするのも、

  父親が海辺で耕作しているから。

 →閏土の西瓜畑の話も、本当はもっと貧困にあえぐ話?

 

〇場面5 故郷を離れる

気づき1 子どものときの別れとの違い

・閏土が陶器を盗む予定だったのかという謎。わだかまり

・私と閏土は話す暇もない。

→場面2の子どものときは、泣き別れ。美しい思い出として残る。

 

〇難しめの読書案内

辜鴻銘の『中国人の精神』(The Spirit of the Chinese People)について | 学術機関リポジトリデータベース

戦後日中思想交流史の中の『狂人日記』 : 「中国に学ぶ」から「共通の課題の探求」へ | 学術機関リポジトリデータベース

現代中国における魯迅

魯迅研究の隆盛は何を意味しているのか | 社会・文化 | 中国学.com

 

・閏土を変えた原因=兵匪官紳は

偉大なる道 - 岩波書店

の幼年・青年時代が参考になる。

わかりやすい概説書として、官と紳については、

『近代中国史』岡本 隆司 | 筑摩書房

匪については、

曾国藩 「英雄」と中国史 - 岩波書店

同書書評の 文明の傀儡としての「英雄」

を参考。

 

なお、『故郷』訳者の竹内好は伝記研究が多い。鶴見俊輔

竹内好 - 岩波書店

 

『少年の日の思い出』の訳者である高橋氏についても、研究がある。

書け,書きつづけよ! : 「ドイツ文学者」高橋健二の誕生 | 学術機関リポジトリデータベース

 

ひとまず以上です。