国語教育 トロッコ(芥川龍之介)

中1教材の

図書カード:トロツコ

を読んで気づいたことを書いておく。

 

 

1 職業観

トロツコの上には土工が二人、土を積んだ後にたたずんでゐる。トロツコは山を下るのだから、人手を借りずに走つて来る。あふるやうに車台が動いたり、土工の袢纏はんてんの裾がひらついたり、細い線路がしなつたり――良平はそんなけしきを眺めながら、土工になりたいと思ふ事がある。せめては一度でも土工と一しよに、トロツコへ乗りたいと思ふ事もある。トロツコは村外れの平地へ来ると、自然と某処に止まつてしまふ。と同時に土工たちは、身軽にトロツコを飛び降りるが早いか、その線路の終点へ車の土をぶちまける。それから今度はトロツコを押し押し、もと来た山の方へ登り始める。良平はその時乗れないまでも、押す事さへ出来たらと思ふのである。

 

・良平は土工の具体的な仕事風景を見て、土工になりたいと思う。

・周りで仕事をしている大人の、具体的な動作にあこがれて、その動作を自分も真似てみたくなる。(模倣願望)

・就活生のように「やりがい」や「自分の成長」や「社会貢献」や「クリエイティブ」や「御社でやりたいこと」を考えない。

 ↓

・仕事を選ぶ基準は、何歳くらいから、

仕事の具体的な内容への興味ではなく、

仕事の抽象的側面(精神的喜び、満足感、社会的承認)や経済的側面に変わるのか?

 

2 良平たちと大人の比較

良平たちで押すとき、

その内に彼是かれこれ十間程来ると、線路の勾配こうばいが急になり出した。トロツコも三人の力では、いくら押しても動かなくなつた。どうかすれば車と一しよに、押し戻されさうにもなる事がある。良平はもう好いと思つたから、年下の二人に合図をした。
「さあ、乗らう?」
 彼等は一度に手をはなすと、トロツコの上へ飛び乗つた。

 

大人の場合

すると土を積んだトロツコの外に、枕木を積んだトロツコが一輛、これは本線になるはずの、太い線路を登つて来た。このトロツコを押してゐるのは、二人とも若い男だつた。

また、

細い線路がしなつたり――良平はそんなけしきを眺めながら

 

とある。以上をまとめると、

(2/3追記 表がうまくいかず、書き直した。

子どもの押すトロッコは、

遊びとして、乗るため。細い線路で、子ども3人でやっと押す。もと来た場所に戻るだけで、何も運ばない。

大人の押すトロッコは、

仕事として、ものを運ぶため(資材運搬)。本線になる太い線路で、大人2人で押す。目的地は不明だがどこかにあって、枕木などを運ぶ。)

 

3 優しい大人とは?

ロッコを子どもだけで押して叱られる

「この野郎! 誰にことわつてトロにさはつた?」
 其処には古い印袢纏しるしばんてんに、季節外れの麦藁帽むぎわらぼうをかぶつた、背の高い土工が佇んでゐる。――さう云ふ姿が目にはひつた時、良平は年下の二人と一しよに、もう五六間逃げ出してゐた。――それぎり良平は使の帰りに、人気ひとけのない工事場のトロツコを見ても、二度と乗つて見ようと思つた事はない。

 

大人2人と押したときは

何時いつまでも押してゐて好い?」
「好いとも」
 二人は同時に返事をした。良平は「優しい人たちだ」と思つた。

しかし、「いつまでも」はいつまでか?

「遅くなる前に帰りなよ」と言わないのか?

 

この2人の土工は最後に

所が土工たちは出て来ると、車の上の枕木に手をかけながら、無造作に彼にかう云つた。
われはもう帰んな。おれたちは今日は向う泊りだから。」
「あんまり帰りが遅くなるとわれの家でも心配するずら。」

本当に優しい人と言えない?

 

4 良平は子どもだが単純な子どもでもない

少時しばらくの後茶店を出て来しなに、巻煙草を耳に挾んだ男は、(その時はもう挾んでゐなかつたが)トロツコの側にゐる良平に新聞紙に包んだ駄菓子をくれた。良平は冷淡に「難有ありがたう」と云つた。が、すぐに冷淡にしては、相手にすまないと思ひ直した。彼はその冷淡さを取りつくろふやうに、包み菓子の一つを口へ入れた。菓子には新聞紙にあつたらしい、石油の匂がしみついてゐた。

ありがとうと言うのみならず、相手の感情を慮る。臭いなど言わない。

良平は8歳だが、幼い子どもと違って気遣いできる。

 

もちろん、

三人は又トロツコへ乗つた。車は海を右にしながら、雑木の枝の下を走つて行つた。しかし良平はさつきのやうに、面白い気もちにはなれなかつた。「もう帰つてくれれば好い。」――彼はさうも念じて見た。が、行く所まで行きつかなければ、トロツコも彼等も帰れない事は、勿論彼にもわかり切つてゐた。

押している途中で帰ると言わず、自分では帰れない点では子ども?

 

5 良平は力があるか?

「おお、押してくよう。」
 良平は二人の間にはひると、力一杯押し始めた。
われは中々力があるな。」
 他の一人、――耳に巻煙草をはさんだ男も、かう良平をめてくれた。

良平は褒められたと思った。

自分は力があると認められたと思った。

 

その内に線路の勾配は、だんだん楽になり始めた。「もう押さなくとも好い。」――良平は今にも云はれるかと内心気がかりでならなかつた。

しかし、いつまでも押させてくれる。

良平は自分もトロッコを押すためには必要だと思ったのだろうか?

「良平は自分を過信して、大人の仕事に参加した」

とまで言うのは考えすぎか?

 

一人ではトロッコは動かせない。

「もう日が暮れる。」――彼はさう考へると、ぼんやり腰かけてもゐられなかつた。トロツコの車輪を蹴つて見たり、一人では動かないのを承知しながらうんうんそれを押して見たり、――そんな事に気もちをまぎらせてゐた。

自分はやはり無力だった、子どもだったと気づく。

 

6 反復によるリズム

良平は一瞬間呆気あつけにとられた。もう彼是かれこれ暗くなる事、去年の暮母と岩村まで来たが、今日のみちはその三四倍ある事、それを今からたつた一人、歩いて帰らなければならない事、――さう云ふ事が一時にわかつたのである。良平は殆ど泣きさうになつた。が、泣いても仕方がないと思つた。泣いてゐる場合ではないとも思つた。

~事、~事、~事、そういうこと→ことの反復

泣きそう、泣いても~泣いている場合~→泣くの反復

 

7 良平と杜子春と母

殊に母は何とか云ひながら、良平の体を抱へるやうにした。が、良平は手足をもがきながら、すすり上げ啜り上げ泣き続けた。

 

(青空文庫) 芥川龍之介 杜子春

杜子春は老人の戒めも忘れて、まろぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬のくびを抱いて、はらはらと涙を落しながら、「おっかさん」と一声を叫びました。…………

 

8 みかん 

みかんの描写が印象的。

 五六町余り押し続けたら、線路はもう一度急勾配になつた。其処には両側の蜜柑畑に、黄色い実がいくつも日を受けてゐる。
「登り路の方が好い、何時までも押させてくれるから。」――良平はそんな事を考へながら、全身でトロツコを押すやうにした。

 蜜柑畑の間を登りつめると、急に線路は下りになつた。縞のシヤツを着てゐる男は、良平に「やい、乗れ」と云つた。良平はすぐに飛び乗つた。トロツコは三人が乗り移ると同時に、蜜柑畑の匂をあふりながら、ひたすべりに線路を走り出した。

芥川でみかんと言えば… 図書カード:蜜柑

 

ひとまず以上です。